双生モラトリアム
「唯、早く!入学式に遅れちゃうわよ」
「はいはい。ほら、陸、鞠。行くよ」
『は~い!!』
お祖母ちゃんになった冴お母さんは、今は同居してくれてる。遅まきながら自動車免許を取り、障害者用に開発された車を運転してドライバーとして働いてる。
つまり、なにかと運転手役を任せられる訳で。
「もう!あんたたちのお陰でクタクタだよ。私を過労死させる気かい?」
「そんなこと言って、おばーちゃんうれしいクセに~」
「そーだそーだ!クリームソーダが食いたいな~」
「こら!勝手なことばっか言うんじゃないよ。私のさびしい財布をあてにしない!」
憎まれ口を叩いてはいるけど、冴お母さんは何だかんだ言って嬉しそうだよね。
賑やかな玄関に、ふと笑いが浮かぶ。
一人部屋に残った私は、いつも通り颯にいってきます、のキスをした。
「みんな賑やかで毎日楽しいよ……でも、颯。やっぱりあなたの声が聞きたいな……」
ちょっとだけ寂しくなって、小さく小さくわがままを言う。
「唯、置いてっちゃうよ!」
「おか~さ~ん!」
「……はいはい、今行きますって!じゃあ、颯。いってきます!!」
慌ただしくバタバタと走り去った私は、知らなかった。
颯の唇が、笑うように微かに動いたことを。
「…………あい、かわら……ず……だ……ね……ゆー、ちゃ……ん……」
ーー本当の春は、すぐそばに来ていた。
(終)