御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「そうだね。ちゃんと話した方がいいよ」
先輩にまで言われてしまえば、「そうですね」と言うほかない。
もともと脅迫状のことは東堂さんが帰国して落ち着いたタイミングで話そうとは思っていた。
それに、もしかしたら東堂さん側にも犯人からなにかしらのアクションがある可能性だってあるし情報は共有しておくべきだとも思う。
でも……とうつむいた私に気付いた先輩が、呆れたような笑顔を浮かべた。
「春野ちゃん、自分のこと話すの苦手だもんね」
図星を指され、苦笑いをこぼす。
「その場を、自分の話で埋めるのはなんだか申し訳なくて」
自分の話をするのが苦手なのは昔からだ。
友達との会話は聞き役が多かったし、自分のことを話したいという欲もとくにはなかった。
父のギャンブル狂いだとか、母子家庭でバイトばかりの学生時代だとか、話せば不幸自慢みたいになってしまうので、その時の空気が嫌だというのがあるのかもしれない。
中二の頃、〝自分紹介〟という道徳の授業があり、そこでありのままを発表したら教室の空気がビタッとすごい重力で床に張り付いたように停止した。
その後にある質問タイムは誰の手も上がらなかったし、先生も誰も指名しなかった。
思ったことを結構そのまま声に出し場を困惑させる傾向のある私が自分の過去の話はちゅうちょするのだから、あの時のトラウマは相当なものなんだろう。
自分の話は他の人にとっては気を遣わせる以外のものではないんだとわかり……そこからはあまり話さなくなった。