御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「考えてみたら部屋も車も、コーヒーの豆も、腕時計も、ずっと同じものを使い続けてる。このキーケースも、気に入って買ってもう五年以上使ってるしな。身の回りの物は特にそういう傾向にあるのかもしれない」

運転席と助手席の間にあるシフトレバー。その前方にある小物入れのようなスペースに置いてあったキーケースを東堂さんが渡してくれる。

L字ファスナーの小銭入れと似た形をしたキーケースは本革で造られていて、色は外側がブラック、内側がブラウン。内側にある三連キー金具やファスナーはシルバーで、そのくすみ具合や皮の様子から長年使っているのがわかった。

それでもボロボロにはとても見えないので、しっかり手入れして使い続けてきたことが想像できた。

「この車のキーはそこには入らないし、鍵関係の物をふたつ持ち歩くのもどうかとは考えたけど、やっぱり気に入ってるから変えられなかった」

この車のカードキーは名刺サイズで厚みも一センチほどあるので、たしかにこのケースには入らない。
不便よりも気に入っているという理由をとる東堂さんに、自然と口元が緩んでいた。

そんな私に気付いた東堂さんが「どうかしたか?」と聞くので、首を横に振ってから言う。

「東堂さんのお気に入りのものが知れるの、嬉しいです。つい先日、あまり東堂さんのことを知らない自分に気付いて少し寂しく思ったところだったので……話してくれて、すごく嬉しいです」

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