御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
ゆっくりと目を開けると、まだ近くにいる東堂さんが私を見ていた。
すっかり暗くなった窓の外。
東堂さんの瞳が街灯を受けて光る。
「俺とのキス、慣れたか?」
至近距離から問われる。
しっとりと色づいた空気がやたら甘く感じて、瞳が揺れまつ毛が震える。
「……慣れません」
なんとか答えたのに、すぐに「もう少し慣らしてもいいか?」と次の問いをされる。
しかもそんな答えにくいこと……とパニックになるより先に、東堂さんに唇を塞がれた。
「ん……っ」
今度は触れるだけでは終わらなかったキスに、思考回路がぼやけていく。
舌同士が合わさると静かな車内にわずかな水音が聞こえ、一気に恥ずかしさが増す。
東堂さんが私の両耳を塞ぐようにして、大きな手で私の顔を固定しているせいで、唇が重なる音も、舌が動く際の水音も、ダイレクトに耳の中に響き、頭がどうにかなりそうだった。
「は、ぁ……っ」
まるで、東堂さんのことしか考えられなくなるようなキスに、背中の真ん中を甘ったるい感覚がゆっくりと落ちていく。
好きな人とのキスがこんな溶けるほどに気持ちがいいものだと身を持って知ったのは、これで二度目となった。
海からの帰りの道すがら、食事を済ませ、私のマンションに着いたのは二十一時過ぎ。
最後にもう一度、今日のお礼と、お土産やブレスレットのお礼を告げてから車を降りようとしてハッとした。