御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
『春野。とりあえずあいつに報告しておけよ。手紙のこともあの女のことも』
『そうだね。ちゃんと話した方がいいよ』
渡さんと先輩の言葉を思い出す。
聞こうと思っていたことをなにも聞けていないことに気付いて、ドアノブを開けようとしていた手を止めた。
でも、振り返って目に映った東堂さんが、「どうかしたか?」とあまりに優しく微笑むものだから、声が喉の手前で止まる。
「あ……えっと、すみません。ちょっと気になっていたことがあって。東堂さんと私がこうして会っていることって、誰か知ってるんですか?」
東堂さんは、「あー……」と少し言いにくそうに答える。
「悪い。ひなたの会社に会いに行ったとき、両親には報告してる。父親からひなたのおじさんに連絡を入れて会社のドアを開けてもらったから、そのときに。両親が言いふらすようなことはないと思うが……まずかったか?」
「あ、いえ! 私も両親には言おうと思ってますし、それは全然……あと、その……私以外にお付き合いしている方とかいますか?」
ぼんやりした聞き方になったのは、ここで話すのは少しズルい気がしたからだった。
彩佳さんはひとりで私の前に立ったのに、私は渡さんや君島先輩に守られて、その上、東堂さんに話して頼るのだろうか……と考えたら言えなかった。