御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


月曜日、私が東堂さんにハッキリ言えなかったことを報告すると、君島先輩は驚く様子もなく普通に答えた。

「やっぱりねー。なんかそんな気はしてたのよね。脅迫状のことも彩佳さんのことも、相談イコール助けてほしいって言ってるようなもんだもんね。東堂さん忙しい人だって言ってたし、まして、フランス帰りだったんでしょ? 春野ちゃんを心配してる私からしたらじれったい気もするけど、春野ちゃんが東堂さんに気を遣うのもわかるよ」

十八時前。受付時間は終了しているため、当然ロビーは無人だ。
今日一日分の書類を見直し、シュレッダーにかけながら言う。

「はい……なんだか、彩佳さんは直接私に話しにきたのに私は東堂さんに言いつけるみたいで……手紙はあれっきりだしって考えたら、わざわざ言うほどでもない気がしてしまって。でも、東堂さんの態度を見る限り、嘘ではなさそうでしたし、彩佳さんとはそういう関係ではないんだと思います」
「私も東堂さんは嘘ついて騙すような男じゃないと思う。そもそも春野ちゃんを騙したところでメリットがないし。それに、普通たった一度会っただけの私にまでお土産買ってこないでしょ。これって暗に〝恋人がいつもお世話になってます〟って意味だろうしね」
「そう……ですよね」

正直、初恋に落ちて、しかもそれが叶って、浮かれている自覚はあった。
東堂さんに会うだけで気持ちが舞い上がっているのは自分でもわかっている。

だから、色々と冷静な判断とか考え方ができていない気もしていたのだけれど、君島先輩にそう言ってもらえて安心する。

「でも、だとしたらあの彩佳さんって本当に誰だったんだろうね」

その答えが出たのは、意外にも翌日のこととなった。


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