御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「あの女、東堂さんのいとこだった」

暗い顔をした渡さんが言った。
場所は、二週間とちょっと前、東堂さんも合わせて四人で飲んだ居酒屋さんの一室。

たっぷりの間のあと、「え、いとこ?」と聞き返した君島先輩と私の声が重なった。

火曜日十九時過ぎ。前来たときと同じように店内は賑わっていて、壁を一枚挟んだ向こう側からは賑やかな会話や笑い声が聞こえてくる。

今日この会が開かれたのは、もともとは、受付にふらっと現れた渡さんの表情が曇っていることが原因だった。

『元気ないですね……どうかしましたか?』と聞いた私に、渡さんは『どうかしたんだけどさ……長くなるから今日仕事のあと飲み行かない?』と言い、うなずいて今に至る。

ドリンクと料理のオーダーを済ませてから、どうしたのかと尋ねて返ってきた答えに、君島先輩と顔を見合わせていると、渡さんがため息をつく。

「昨日さ、急に東堂プロダクツの支社から連絡があってさ。なんか自販機もコーヒーのレンタルサーバーもうちと契約したいとかで。しかも俺指名。話がうますぎるじゃん。もしかしたら東堂さんが裏で手回したのかなとか思いながらもとりあえず出向いたら、そこにいたのがあの女だった」

運ばれてきたビールのジョッキには手をつけないまま、渡さんが続ける。

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