御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「あの女、支社のオフィスマネージャーやってるとかでさー……なんかそこそこの立場らしい。まぁ、血筋考えれば当たり前かもしれないけど」
「オフィスマネージャー?」
「こう、社員が働きやすい環境づくりをする役職。仕事の効率があがる配置変えだとか物理的なことから、人間関係だとかそういうのも担当してて……多分、うちの会社でいえば総務部長とかそういうイメージに近い。あの支社では、外注管理もオフィスマネージャーの仕事みたいだった」
「それで?」と君島先輩が先を促す。
「『うちのすべてのフロアの契約してあげる。価格的には今まで入れていたところと差はないから、実際に使用してみて社員が満足しているようだったら他の支社や本社に薦めてあげてもいい』って」
「よかった……ですね?」
うまくいけばかなり大きな契約だ。しかも渡さんご指名となれば、評価もあがる。
それでも〝よかったですね〟と言い切り喜べなかったのは、相手が彩佳さんだったからなのだけれど……それは渡さんも同じようで、表情は相変わらず曇ったままだった。
「なにか条件飲まされたのね」
運ばれてきた焼き鳥に手を伸ばしながら言う君島先輩に、渡さんが眉をひそめる。
「あの女が春野を待ち伏せして散々ボロクソに言ってきたとき、俺、〝取引先じゃなきゃ頭下げない〟みたいなこと言ったじゃないですか。それ、覚えてて。『契約してあげるけど、この契約が成立したら私は立派な取引先だってことをその軽そうな頭に叩き込んでおいてよね』って」
悔しそうな顔で渡さんが言うと、先輩が苦笑いをこぼす。