御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


そんな思いから言った私に、渡さんは半信半疑といった感じで「……そう?」と聞くから、コクンと大きくうなずいた。

「はい。偉いです」
「そっか……そうだよな。じゃあ、いっか!」

場をこれ以上暗くしないためなのか、明るい笑顔になった渡さんが餃子に箸を伸ばす。
そんな様子にホッとしている私の隣で、先輩が「羨ましいほど単純ね」と呟いていた。

「まぁ、そういうわけだから、あいつは東堂さんのいとこだ。それに、俺が見る限り東堂さんに恋心を抱いている様子もない」

食欲を取り戻した渡さんが、チキン南蛮を食べながら言う。
渡さんのおかげで、東堂さんと彩佳さんの関係はわかった。そして、たぶん、東堂さんに恋心を抱いていないというのも、本人が言うように事実なんだろう。

金曜日にはふわふわしてなにもわからなかったことが固まり出した……はいいものの、疑問は解けない。

「でも、だとしたらなんで彩佳さんは私に会いにきたんでしょう」

むしろ、彩佳さんが東堂さんを好きじゃないとハッキリしたせいで、ますますそこがわからなくなった。

「うーん……東堂さんに恋心抱いてないのに牽制する理由なんてないものね。お金がどうって言ってたから、春野ちゃんが卑劣な女じゃないかを確認しにきたのか……それにしたって、聞く限り東堂さんは春野ちゃんのことを彩佳さんには言ってなさそうだし、わざわざ調べてまでしてってところが気持ち悪いよね」
「俺もそう思います。手紙のこともあるし、まだ油断ならないっていうか」

そう言った渡さんが、私を見る。

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