御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「俺もちょくちょく顔出してあの女の腹探るけど、春野も一応気を付けた方がいいよ。大企業で名前が知れてる分、そこの社員の自覚がある以上、事件になるようなことはしないだろうけど、相手の狙いがわからないし用心するにこしたことない」
「そうよね。彩佳さん本人があれだけ春野ちゃんに〝気を付けるように〟なんて言ってたくらいだし、もしかしたらなにかする気かもしれないから」

ふたりの視線を集めながら「はい」とうなずく。

『覚悟を決めて強くなるか別れるかにして。あと、しっかり自衛して』

いったい、彩佳さんは私に、なにに気を付けて欲しいと言いたかったのだろう。
なにを思って、あんな強い眼差しで私を見ていたのだろう。

あの時の彩佳さんの目を思い出すと、なんだか胸がざわざわした。



渡さんも君島先輩もアルコールが好きで、いつも楽しそうに飲む。
量もいける体質のようで、ふたりとも思わず止めたくなるほど飲むのだけれど、この日は違った。

珍しくビール二杯目で渡さんが潰れたため、会は早めにお開きとなったはいいものの、ぐでんぐでん状態の渡さんをひとりでは帰せない。

先輩とタクシーでも呼ぶしかないと話している時にちょうど東堂さんから電話があり……事情を聞いた東堂さんが助け舟を出してくれる流れとなった。

「帰り道を心配されるくらい弱いなら、酒は控えた方がいいんじゃないか」

事情を聞くなり居酒屋に向かってくれた東堂さんが、しゃがんでガードパイプに手をかけている渡さんにため息を落とす。

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