御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


渡さんが示した住所には、六階建てのマンションが建っていた。薄いグレーのマンションを見上げていると、後部座席から渡さんが降りてくる。
ふらふらしているのを見ていられず私が手を貸そうとしたところで、東堂さんがそれを止めた。

「俺が支えるから、ひなたはこいつの鞄と、そのコンビニ袋頼む。あと、鍵も」
「はい。わかりました」

後部座席を覗いて渡さんの鞄を取り出す。
そして、渡された鍵で車にロックをかけてから、既に歩きだしているふたりを追った。

エントランスのすぐ右側にあったエレベーターに乗り込み三階に上がると、渡さんがポケットから鍵を取り出した。

「貸せ」と渡さんから奪うようにして取った鍵で玄関を開けた東堂さんが、渡さんをフローリングに座らせる。
それから、玄関脇の棚に鍵を置き、私が持っていた渡さんの鞄とコンビニ袋も床に置く。

「これ、水な。車出したことも含めて、でかい借りができたと思っておけよ」

少し意地悪く笑った東堂さんが、私に外に出るよう促す。
なので「渡さん、お疲れ様でした」と挨拶をし通路に出たところで、後ろから呼び止められた。

「ちょっと待てよ」という声に振り向くと、玄関ドアにつかまった状態で渡さんが立っていた。

目に見えて肩で呼吸している渡さんは東堂さんをじっと睨むように見ていた。
きちんと向かい合うように立った東堂さんに、渡さんが言う。

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