御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
渡さんのパッチリとした二重の目が私を捉えるなり「春野! どうだった? お見合い」と聞いてくるので、少し笑いながら椅子を引く。
座りながら君島先輩に「おはようございます」と挨拶をし、それから渡さんに視線を戻した。
「ダメでした。私では相手が務まらないようで……そもそも東堂さんは乗り気じゃなかったみたいで、すぐ解散になりました」
苦笑いで報告した私に、渡さんはどこかホッとしたような顔をしたあとで笑顔を向けた。
「そっか。でもさ、相手、東堂プロダクツの御曹司じゃん。上手くいったところで立場とか色々面倒くさそうだと思ってたから……まぁ、こう言っちゃ悪いけどよかったと俺は思う」
「そうよねー。こんな機会二度とないから是非とも頑張って欲しいと思ってたけど、よくよく考えてみたら春野ちゃんに大企業御曹司の妻は荷が重いよね。もっと普通でいいから幸せな結婚をして欲しいな」
黒髪ボブカットの君島先輩は、いつでも威勢がよくてポジティブな、一緒にいると元気がもらえる憧れの先輩だ。
しみじみと言った先輩に、渡さんが呆れたような笑みをこぼす。
「君島さん、親みたいっすね」
「もうそれでもいいかな。春野ちゃんには奥底に眠っていた母性本能とか庇護欲とか相当目覚めさせられちゃってるもん。なんにでも健気に取り込む姿を間近で二年近く見せられたらそりゃ情も湧くよ」
「とか言いながら、君島さん、最初春野のこといじめてたくせに」