御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
翌日の業務後、十七時半を指す時計を見ながら、東堂さんはもう出国したのか……と考えていた時、受付に渡さんが姿を現した。
「君島さんは?」と聞かれ、「会議室の片付けに行ってます」と答える。
気まずそうな笑みを浮かべて目を伏せた渡さんは、私をチラチラ見ながら「昨日のことなんだけどさ」と切り出した。
「なんか色々言っちゃったけど、あまり気にしないでくれると助かる。よそよそしくされたら傷つくし、いっそ忘れてくれていいくらいだから」
「……忘れた方がいいんですか?」
私だったら、真剣な告白をしたのにそれを忘れられたら悲しい。
けれど、昨日渡さんは酔っていたし、もしかしたら意図せず言葉になっただけの可能性もある。
だから確認するために聞いた私に、渡さんは面食らったような顔をしたあと、しばらく考え込み……そして十秒ほどが経ってから苦笑いを浮かべた。
「ごめん。そこはもう一度よく考えてから答えさせて」
そう言ってから、渡さんは「それより、あのあと東堂さんなにか言ってた?」と聞く。
その表情はもういつも通り明るかった。
「あ、えっと……〝悪いヤツじゃない〟って言ってました」
車内での会話を思い出しながら言うと、渡さんが嫌そうに顔を歪める。
「うわ、なにそれ。余裕じゃん」
「そんなことは……」