御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「先週から今日までの尾行でわかったけど、やっぱり犯人はあの女だ。さっき、春野が追いかけて逃げ出したのってあいつだったから」
「えっ」
「あいつが春野のあとをつけてて、俺がその後ろをつけてる状態だったから間違いない。まぁ……なのに、あの女が逃げきれて俺が捕まったっていうのは情けないけどな」
スポーツドリンクをごくごくと喉を鳴らして飲んだ渡さんが私を見る。
「でも、夜道をつけるとか、やっぱり普通じゃない。なにかしら目的があるんだろうし、いつまでも後をつけてるだけとも限らないし危険だと思う。迷惑かけたくないって考えているんだろうけど、そろそろ東堂さんに相談しろよ。いくら今海外だって、電話くらいはしてるんだろ?」
本当に心配してくれているのが伝わってくる声と表情だった。
真面目な顔の渡さんに、小さくうなずく。
「そうですね。……そうします」
これ以上黙っていると、余計に迷惑がかかるかもしれない。
それに、渡さんの話を聞く限り、東堂さんもなにか勘づいているみたいだし、話しておいた方がいい。
もう、タイミングだとか、そんなことを言っている場合じゃないのかもしれない。
犯人がハッキリしたことで、恐怖は減ったけれど、疑問や不気味さは変わらず残ったままだった。