御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
遠慮なしの眼差しも、「はっ」と吐き出すような笑い声も、なんだか不快だなと思っていると。
「こうしてしっかり見てもやっぱり大したことないな。晃成もなんでこんな女にたぶらかされてるんだろ」
悪びれた様子も見せずにそんなことを言われる。
「写真で顔は知ってたし電車でも一度近づいたけど、実際こうして顔を合わせても特別な魅力があるわけでもないし。どうやって晃成に取り入ったの? たしか実の父親がろくでもない男だったって話だよね。その話をして晃成の同情でも買ったとか?」
ズカズカと私のプライベートに踏み込んでくる男性に、思わず眉をひそめていた。
写真で見たって、なんで……? 電車っていつ?
それに、実の父の話はどこから知ったのだろう。
何度思い出してみても、私の記憶の中に、今目の前にいる男性はいなくて焦りが生まれていた。
そんな私を見ながら男性が続ける。
一貫して嫌な感じだった。
「今は母親の再婚相手のおかげでそこそこの生活してるらしいけど。俺さぁ、君みたいに貧乏くさい女大嫌いなんだよね。……ああ、やめてね。妊娠したとかそういうくだらないことを盾にして晃成を縛り付けるの。本当にあさましくて嫌になるよね」
顔を覗き込むようにして笑われる。
さっきから言葉の中に〝晃成〟という名前が何度か出てきていることに気付いて、少しだけ気味悪さが減った。
状況がじょじょに整理できてくると、焦っていた気持ちが落ち着いていく。
中途半端に開けっ放しにしていた玄関ドアをしっかりと閉め、それを背中にして、男性を見た。