御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「あの、どちら様ですか?」

男性は私をよく知っているようだけど、私はまだなにも教えてもらっていない。
だから聞くと、男性はバカにしたような笑みで答える。

「名乗ったら晃成の前から消えるって約束してくれるなら、教えてあげてもいいよ」

男性をじっと見上げて口を開く。

「私のフルネームだけでなく生い立ちも知っているのは、きっと調べたからですよね」
「だったとして、何? っていうか俺だって興味があって調べたわけでもないし自惚れられても困る……」
「どんな事情があったにしても、知らない人に勝手に個人情報を調べられるのは気持ちがいいものではありません。こんな風に、突然玄関先まで来られて、説明もなしに攻撃されるのも不快です。誠意として名前くらい教えてくださってもいいかと思います」

私が急に話し出したからか、男性が驚いたように眉を寄せる。
けれど、次第に顔をしかめ、私に一歩近づいたと思った瞬間――。

持ち上げた右足で、私の横の壁をガンッと踏みつけるように蹴った。

突然の衝撃音に体が跳ね、心臓まで飛び上がる。
ドッドッと恐怖から震える胸の前で両手を握り締めている私を睨むように見た男性は、気に入らなそうに「東堂准。晃成のいとこだ」と言った。

「東堂さんの、いとこ……」

ほぼ無意識にこぼれ落ちた声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
准さんは、足を元に戻すと、ゆっくりと体勢を整え私を見た。

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