御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「あの、これ」
出張前、東堂さんから預かっていた鍵を返す。
鍵が東堂さんに渡り、私は重大な任務から解かれた気分だったけれど、東堂さんはやや残念そうな笑みを浮かべた。
「鍵をいい訳にして部屋に誘うつもりだったが、まさかこんな状態でくることになるとは思わなかったな」
独り言にもとれるトーンで言った東堂さんが「どうぞ」と玄関を開ける。
さっきの言葉が気になり何か返事をしようとしていたのだけれど、目に前に広がった光景にそんな考えが飛んでいく。
「こんな風になってるんですね……すごい」
靴を揃えて部屋に上がると、一面ガラス張りになっていて驚いた。
外から見た時に丸みを帯びていた部分は全部ガラスになっていて、個人宅だとは思えない造りでとても新鮮だった。
白い大理石の床が、ガラス越しの夕日を反射している。ガラス張りの部分が多く開放感があることに加えて天井が高いので、元から広い部屋がもっと広く見えた。
広々とした空間にあるのは、黒のアイランドキッチンと、L字型の濃いグレーのソファ。それと、天板がガラスのローテーブル。他に目立つのは壁掛けの大きな液晶テレビくらいで、びっくりするほどシンプルだった。
東堂さんらしいな、と思っているとソファに座るよう勧められたので、端っこに腰を下ろす。
五分ほどすると、東堂さんが紅茶の入ったカップを持ってきてくれたので、お礼を言って受け取った。