御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「紅茶、わざわざ入れてくれたんですか?」
「ああ。店で飲むような本格的なものは無理だけどな」
「でも、おいしいです。ありがとうございます」
温かい紅茶に気持ちが和らいでいく。
東堂さんは、間を三十センチほど空けて隣に座った。
以前、海までドライブしたときに、東堂さんは紅茶はあまり飲まないと話していた。
それなのにこうして紅茶を入れてくれたのは、私が好きだと言ったのを覚えていてくれたからだとわかり、その優しさに胸の奥からじわじわと嬉しさが溢れた。
カップを包むようにして持っていた両手がようやく温まる。
准さんとのことがあってからここまで来るまで、もう一時間近く経っている。
それなのに、その間ずっと冷たいままだった手も、余韻のようにドクドクと嫌な振動を繰り返す心臓もずっと気になっていたから、落ち着いてきた自分の体にホッとした。
「あの、今更になってしまいましたが、おかえりなさい」
見上げて言った私に、東堂さんが目を細める。
「ああ。ただいま」
「スウェーデン、綺麗な街並みでしたね。建物の形も可愛くて……」
東堂さんは海外出張から帰ってきたばかりだし、もちろん私もその話題を聞きたかったから選んだのだけれど、言い終わる前に「ひなた」と呼ばれる。
東堂さんが私の言葉を強引に遮るのは珍しいので、不思議に思って隣を見ると、真剣な瞳と目が合った。
「准が本当に悪かった。怖かったよな」
落ち着いた声で聞かれる。
本当に心配してくれているのが伝わり、微笑みを浮かべて首を横に振った。