御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


咄嗟にロビーの壁にかかっている時計を確認する。時刻は八時二十五分。まだ受付開始時間前どころか始業時間前だ。

というか……自動ドアの施錠は九時に解除されるはずなのに、どうして今開いたのかがわからずに視線を向けて驚いた。

白い四角いタイルが敷き詰められているロビーを、こちらに向かって歩いてくるのは東堂さんだった。

チャコールグレーのスーツに身を包んだ東堂さんは、迷う様子も見せず真っ直ぐに受付に向かってくる。
その姿を見て一番に、やっぱり土曜日言い過ぎたのかもしれない……という不安に襲われた。

でも、帰り際にタクシーを用意してくれたときも、東堂さんは怒った様子はなかったし……わざわざ文句を言うためにここに足を運ぶような無駄なことはしない気がする。

けれど、それ以外の可能性が見つからず、思わず喉がゴクリと音を立てたと同時に、東堂さんがカウンターの向こう側で足を止めた。

東堂さんと渡さんが並ぶ形になる。
土曜日、タクシーのドアの前で横に並んだ時にも思ったけれど、やっぱり東堂さんは背が高い。渡さんも男性の平均身長以上はあると思うのに、それよりも五センチほど高く見えた。

ロビーに入ってきたときから、終始私しか映していない瞳にじっと見つめられ、緊張と不安から胸が騒がしい。


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