御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない

Step.1



まさか自分が振袖に身を包みお見合いをする日がくるなんて、夢にも思わなかった。

肩の淡い黄緑色から足元の山吹色にかけての優しいグラデーションの振袖。赤や白、オレンジ色で描かれた牡丹の花がとても色鮮やかで目を引く。
帯は薄いピンク色。抹茶色と白、大小の六角形の枠組みが不規則に描かれ重なっている。

二重の瞼には落ち着いたゴールドのアイシャドウを乗せ、綺麗なアイラインが引かれている。まつ毛は派手にならない程度のマスカラをほどこした。
唇に乗る口紅の色はベージュピンク。

とくに目立つパーツを持たない私の顔立ちと、振袖との相性からスタッフの方が選んでくれたものだ。

鎖骨辺りまでの、ふわふわとパーマのかかった髪をまとめてくれたのも同じスタッフの方で、素早く綺麗にまとめる様子にはため息がもれた。

だらしなく見られない程度にラフにまとめられた髪型は、私には到底真似できない。

初めて履く草履はバランスがとりにくいけれど、こんな格好は初めてだから、ご機嫌なあまり少しの不便さは嬉しさに変換されていた……のだけれど。

この部屋の空気に混ざる、肌を刺すようなピリピリとした棘はなんだろう。

私、春野ひなたは本日三月八日、お見合いをするという名目で高級料亭に出向いていた。
相手は、東堂晃成さん。三十歳。日本中どころか世界にも支店を持つ大企業、東堂プロダクツの御曹司だ。


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