御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


そんな気持ちの変化には戸惑ったけれど、相手のあることだし、そっけない態度で臨むよりはよっぽどいいはずだ。せめて父の顔を汚すような態度には気を付けて、しっかり向き合おう。
その時間は、東堂さんとのことだけに目を向けて過ごそう。

……と、前向きに意気込んでいたのに。

木製のテーブルの向こうに座った東堂さんはニコリともせずに「初めまして。東堂晃成といいます」と述べた。
その表情にも声にも、感情はこれっぽっちも込められていない。
その場にいた私と両親、全員がわかるような無機質な態度だった。

「あ……初めまして。春野ひなたです。今日はお会いできて光栄です」

座ったままぺこりと頭を下げると、東堂さんも軽く会釈する。

「晃成くん、初めまして。ひなたの父です。晃成くんも聞いているかもしれないが、今日のこの席はお父さんと私との話の中で――」

父が説明するのをぼんやりと聞きながら、東堂さんを見る。
彼は、話している父に視線を向けてはいたけれど、やはりその顔からはなんの感情も読み取れなかった。

ちなみに、東堂さんのご両親は都合がつかずいらっしゃっていない。これは前もって父から聞かされていたのだけれど、聞いたときには東堂さんが少し心配になった。

お見合いの場にひとりで出向くなんて、私だったら緊張でどうにかなると思ったからだ。

でも、見る限り東堂さんはそんな気配は見せず、ただ淡々とプログラムをこなしているように映った。
まるで少しの興味もない講義にでも出席しているようだった。

乗り気じゃなかったのかな……と悲しい気分になりうつむいた時、両脇に座っていた私の両親が席を立つ。

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