御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「あの、違ったら申し訳ないですが、東堂さんのペースで食べていただいて大丈夫ですから。私、食べるのが遅いので、もし合わせてくれているなら気を遣っていただかなくても全然……」
声が途中で止まったのは、東堂さんがあまりに優しい目をしたからだった。
細められた目に囚われ黙った私に、東堂さんが言う。
「問題ない。俺は普段早すぎるだとかもっと味わえだとか周りに言われるくらいだから、たまにはこういう時があってちょうどいい。ペースメーカーってやつだな」
「ペースメーカー……マラソンみたいですね」
思わず笑ってから「でも」と続ける。
「ありがとうございます。時間に追われている時なんかは周りにイライラされちゃうこともあったりしたので、そう言っていただけると救われます」
繁忙期なんかは、昼休みを削る日もあるのだけれど、食べるのが遅い私は相当頑張って詰め込んでいる。もしくは、半分食べて諦めると話すと、それまで穏やかな顔で私の話を聞いていてくれた東堂さんは少し納得いかなそうな顔をした。
「それは企業として体制を考え直す必要があるな」と難しい顔をしてしまった東堂さんに、慌てて口を開く。
「でも、そんな日は年に数日ですから。それに先輩も私のことをよく知っているので、急がなくていいよって言ってくれますし。周りにイライラされていたっていうのも昔の話です。小学校の給食だとかそれくらいですから」