御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
あまりおおごとにしたくなくて笑顔を作る。
うちの企業と東堂プロダクツは仕事上関りはないはずだけれど、それでも東堂さんがなにかひと言言えば、うちのシステムなんか簡単に変えてしまえそうで怖かった。
この間の受付時間前の訪問だって、うちの会社に事前に話をつけて開錠させていたって話だしありえないことじゃない。
にこにこしながら言った私に、それでもやや不満そうにしていた東堂さんだったけれど、そのうちに「そういえば」と話題を変える。
「マラソンって言えば、ジョギングが趣味だったな」
さっきのペースメーカーの話から思い出したんだろう。
私のプロフィール情報をすぐ連想してくれたことに嬉しさを感じながらうなずく。
「はい。そんなにたくさん走るわけじゃないですけど。高校の頃陸上部だったので、毎日朝練で走ってたんです。その癖が抜けなくて、今でも朝走らないと一日のペースが作れない感じで」
「ああ。なんとなくわかる。一度ルーティンに入ると、しておかないと気持ち悪いよな」
「そうなんです。東堂さんもなにかそういうルーティンってありますか?」
私よりひと足先に食べ終えた東堂さんが、スプーンをお皿に置く。
それから両手を体の後ろにつき視線を宙に向けた。