御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「ひなた、お母さんたちはもう席を外すから、あとはふたりで。ね」
母に言われ、思わず「えっ」と声がもれたのは仕方がないと思う。
だってこの部屋の空気は明らかに不穏だ。そんな場所にひとり残されてもどうしていいかわからない。
私の顔にはそんな感情がわかりやすく浮かんでいたと思うのに、それに気付いているのか気付いていないのか、両親がそそくさと退室していく。
東堂さんのご両親がいらっしゃっていないなら、こちらだけが三人並んでいるのも東堂さんにプレッシャーになると考えての退室なのかもしれないけれど……。
もしかしたら、自分たちだけこのトゲトゲした空気から逃げ出したかっただけなんじゃ……という可能性が消せなかった。
チラッと視線を上げ東堂さんの表情を確認する。
すぐに視線がぶつかったので、意を決して口を開こうとしたけれど、東堂さんが話し出す方が先だった。
「話を長引かせるつもりもないから率直に言っておく。この縁談がまとまっても俺はおまえと恋愛するつもりはない」
今までどおり無感情の声で言われる。
空いた間を埋めるように、中庭の方からししおどしの音が聞こえた。
「え?」
「もしも結婚に甘えた夢を抱いているなら、俺はそれを叶えるつもりはないし他の男を探した方がいい。俺との結婚を受け入れるなら、それを理解した上でにしてほしい。あとあとお互いの認識の違いから面倒なことになるのは避けたい」