御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「十個全部……強烈な一目惚れだったんですね」

「そういうことになるな」とおかしそうに笑った東堂さんが続ける。

「でも、考えてみると今までもたいがいのことがそうだったかもしれない。最初に自分が感じ取った印象で物事を決めてきたことが多い気がする。インスピレーションが八割、それ以外が二割ってとこだな」
「なるほど……」
「ひなたは、ひとつひとつよく考えて決めそうなイメージがある」

視線を向けた東堂さんに「合ってるか?」と聞かれ、考える。

「そうですね……。ひとり暮らしをするにあたって家電を揃えたときには本当にじっくり悩みました。安い物ではないから余計に。でもやっぱり、一目見て気に入ってその気持ちに抗えずに手を伸ばすこともあります。雑貨とか……あ、こういうヘアアクセだとかも結構衝動のまま買っちゃいます」

今、実際に使っているヘアアクセを指差しながら言う。
鎖骨辺りまでのパーマのかかった髪は、大体そのまま下ろしているか、ハーフアップにしていて、今日は後者。

耳の上の髪を一束ずつとり、一度ねじってとめるだけの誰にでもできる簡単ヘアアレンジで、ゴムにはポニーフックをつけている。

直径三センチほどのドーム型の透明なレジンの中に小さなドライフラワーが詰まっているデザインは、お気に入りでよくつけているものだ。

ちょうど信号待ちで車が止まったため、東堂さんに見えやすいように少し背中を向けてポニーフックを指し示す。

すると伸びてきた手が髪に触れた。

耳の後ろあたりの髪を一束指ですくわれた際、東堂さんの指が肌にも触れ、その感覚に胸が大きく跳ねた。

< 51 / 184 >

この作品をシェア

pagetop