御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
トクンと弾んだ胸にびっくりする。
今までだって、触れられたことはあった。
手を握られたこともあったし、頭を撫でられたこともある。でも、その時には感じなかった鼓動の高鳴りに気付き……自分自身に戸惑う。
東堂さんに今、髪を見られているのだと思うと居たたまれない気持ちになった。
首にあたった、私よりも体温の高い指先に身動きがとれずにいると、そんな私に気付いた東堂さんが手を引く。
「ああ、悪い。勝手に触られるのは嫌だよな」
「あ、いえっ、そうじゃなくて……その、東堂さんに触れられるのがなんだか急に恥ずかしくなってしまって。今までは大丈夫だったのに……変ですよね」
美容室だって行くし、髪を男性に触れられたのが初めてというわけでもないのに、突然恥ずかしくなるなんておかしい。
だから、今日の突然の誘いだとか、初めて乗る車だとか、ふたりきりの空間だとか、色んな事象が重なったせいで胸が誤作動を起こしたのだろうと無理やり片づけたのだけれど。
お店の駐車場に車をバックで駐車した東堂さんは、シフトレバーをパーキングに入れたあとで私を見た。
「さっきの話だけど、別におかしくはない。俺のことを意識し始めたっていう証拠だし、俺的には嬉しい」
「そう……なんですか?」
「ああ」
そういうものなのか、と感心する。
恥ずかしがったりせずに、普通に話したり触ったりできた方がスムーズでよさそうだと思ったけれど、一概には言えないらしい。
「あの、私も触ってみてもいいですか?」
そう切り出すと、東堂さんは面食らったような顔をした。