御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「……触る? って、俺をか?」
「はい。この間頭を撫でられたとき、大きな手だなぁって思って。触ってみたいと思ってたんです」
私の言葉に、東堂さんはややためらいを見せたあとで「ん」と左手を差し出してくれた。
手のひらが上に向けられた手に、ゆっくりと触ってみる。
今の今までシフトレバーを握っていたせいか、手のひらは少しだけ冷たく、指先は温かい。
大きさ以外も、皮膚の感じや関節部分の骨の出方も私の手とはだいぶ違っていて驚いたけれど、でも、好きだと思った。
心のどこかがそわそわするのに、ずっと触れていたいと思う。
学生時代、友達が彼氏と手を繋いだと騒いでいたけれど、その時の友達の気持ちがようやくわかった気がした。
「やっぱり、大きいですね」
ちょうどひと関節分大きさが違う手を合わせながら、ふふっと笑う。
日常生活の中で男性の手を見る機会なんてたくさんあるけれど、こんなにじっくりと観察するのは初めてだし……そもそも興味を持つのも初めてだった。
そう思い、ふと気付く。
男性の手を観察する機会なんて、今まで数えきれないほどあったはずなのにそうしなかったのは、興味を持っていなかったからだと。
つまり、私は〝男性の手〟ではなく〝東堂さんの手〟をこうして知りたかったんだ。そしてたぶん、東堂さんの手だから触れて心がそわそわしたんだ。
初めて生まれた感情と、突如高鳴った鼓動に戸惑い顔を上げる。
ありがとうございました、とお礼を言って終わりにするためだったのだけれど……視線の先にいる東堂さんの様子がいつもと違うので、首を傾げた。