御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「はじめまして! 春野ちゃんと同じ受付をしてます、君島です」
東堂さんから電話を受けたときからずっとテンションの高い先輩とは反対に、東堂さんが来るとなってからなんでだか威勢をなくした渡さんが「……どうも。春野の同期の渡です」と小さな声で言う。
その様子を不思議に思いながら、隣に座る東堂さんを見上げた。
「あの、もし居心地が悪いようでしたら東堂さんのお友達も呼びますか?」
君島先輩も渡さんもいいひとだけれど、東堂さんからしたら初対面だし、自分以外が同じ会社という繋がりがあるのは疎外感を抱いて当然だ。
だから、先輩たちの了承も得た上での提案だったのだけれど、東堂さんは「いや、問題ない」と首を横に振った。
「そもそもあまり気心の知れた友達っていうのもいないしな」
運ばれてきたばかりのビールを飲みながら言われた言葉に、内心しまったと思う。
まずいことを聞いてしまったかもしれない……と申し訳なさで固まっていると、東堂さんはそんな私に気付いて笑みをこぼした。
「今ひなたが考えているような可哀相な感じじゃなから気にしなくていい。学生時代も普通に友達はいた。ただ、卒業以降も継続して連絡を取り合うくらい仲がいい友達はいないってだけで、孤立していたわけじゃない」
東堂さんのフォローに少しだけホッとしていたとき、それまで静かだった渡さんが「友達作ってこなかったのって、やっぱり立場の問題ですか?」と聞く。
東堂さんは「まぁ、そうかもな」と答えたあと、苦笑いをこぼした。