御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「それって、親が厳しかったとかですか?」
「いや。うちは基本的にはなんでも自由だったし交友関係だとか遊び方に口出しされたことはなかった。……でも、周りはそうじゃなかったってだけだ」

少しだけトーンを下げた東堂さんに、先輩が「昔、なにかあったんですか?」と聞く。
東堂さんは、苦笑いを浮かべたまま教えてくれた。

「小学校の時にバスケのチームに入っていて、練習中に怪我をしたことがあったんだ。チームメイトとぶつかって俺は腕を骨折、相手は打撲。練習中の怪我だしどちらが悪いってわけでもなかったのに、その夜、相手の親が真っ青な顔で謝りにきた。玄関先で何度も何度も頭下げてるのを見て……それから必要以上には関わろうと思わなくなった」

そう説明した東堂さんの声はいつも通りだった。
それでも、微笑みを浮かべる横顔に影が落ちた気がして、思わずその腕に手を伸ばしそうになったところで、先輩が言う。

「そうだったんですね。でもたしかに、東堂プロダクツの御曹司に怪我をさせたなんてなったら、子ども連れてとびきり高い菓子折り持って謝りに行くかも。東堂さんの人柄関係なく、世間的にはそういう行動になっちゃうくらいの大企業ですし」

君島先輩の言葉に、東堂さんが「そうだな」と相槌を打ち、ふっと笑みをこぼす。

「相手の親の気持ちは理解できるし、俺でもたぶんそうする。誰が悪いわけでもないから、ただそれが現実なんだって受け止めるほかなかった」

そう言ってから「まぁ、もう昔の話だしどうでもいいけどな」と話を終わらせた東堂さんに、なにかかける言葉を探していたけれど、渡さんが口を開く方が先だった。

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