御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「小学校の頃……」
「は?! 小学校の頃から遊んでんの?! 早すぎだろっ、春野、ダメだ、こいつ!」
途中で騒ぎ出した渡さんを「違う。ちょっと黙ってろ」と呆れたように笑って止めた東堂さんが続ける。
「小学校の頃、バスケでそんなことがあったから……まぁ、恋愛に対しても同じ感じだった。たぶん、真剣に付き合ったところでその先で結婚だとかなったら、また相手が委縮しきった顔するんだろうってすぐ想像がついたし、成長していくうちに自分の立場は嫌でも自覚したから、余計に恋愛したいとは考えられなくなった」
テーブルの上にあるビールジョッキの持ち手を握ったままの東堂さんの手に、結露した水滴が移り落ちる。
東堂さんは目を伏せ、微笑みを浮かべていた。
「ちょうど身近に〝近づいてくる女はみんな財産目当てだ〟みたいに騒ぐやつがいて、そういう人間も実際にいたから、俺も割り切った関係しか持たなかった」
「たしかに……あれだけの大企業となると、東堂さんの後ろにあるものを狙う女は多いでしょうね」
君島先輩が同意する。
渡さんは、ぶすっとした顔のなかにバツの悪さみたいな感情を浮かべて東堂さんを見ていた。
「真面目に特定の人間と付き合ってみたい思いがなかったわけではなかったけど、結婚願望もなかったし仕事も忙しかった。たぶん、自分にとって特別な誰かを探したいと思うよりも、恋愛で面倒なことになるのが嫌だって気持ちの方が強かったんだろうな。俺自身の問題だったと今は思う」