御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
「軽い気持ちじゃないとか言ってるけど、東堂さんって春野とまだ何回かしか会ってないんだろ? それなのに、今の時点で他の女と春野は違うって言い切るのは早計だと思うし、東堂プロダクツの御曹司っていう立場があるなら、勘違いの可能性とかを考えてから言葉にするべきだと思うんですけど?」
東堂さんの手は、私の手とそれぞれ指を絡めた状態で動きを止めている。ふたりの間で繋がれたままの手が気になりながらも、渡さんがずいぶん挑発的な物言いをしたのは理解できた。
どうしてかわからないけれど、今日の渡さんはおかしい。普段こんなに絡むような酔い方はしないのに……と思い、仲裁に入ろうとしたところで、東堂さんが言った。
「つまり渡は、ひなたは俺が本気になるような女じゃないって言いたいんだな?」
その問いに、さっきまで威勢よくしゃべっていた渡さんがぐっと黙る。
それまで傍観していた君島先輩が、「渡くんの負けね」と呆れて笑うと、渡さんが「くそっ」と吐き出すように言い、両手を後ろについた。
「春野は誰から見てもいい子だよ。性格も優しくて柔らかいし、心配になるくらい純粋だし。見た目だって可愛い。正直、春野に惚れるのなんて当然でしかない」
天井を仰いだ渡さんが「くっそおもしろくない」と吠えると、その様子を君島先輩がおかしそうに笑い、東堂さんはしたり顔を向けていた。
なんだか賑やかな飲み会になったけれど、東堂さんに握られたままの手に気をとられ、話の半分も入ってこなかった。