御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「東堂さんの立場は知っていますし、私にはわからない、色々と面倒なことがあるんだと思います。家同士の話になりますから、もめ事になるような原因は最初からはじいておいた方がいいって、そういう事情もわかります。だからきっと、東堂さんがそういう言い方をされるのも仕方のないことなのかもしれませんが……」

目を合わせ、目を細める。
笑顔を作ったつもりだったけれど、痛む胸のせいで苦笑いになっていたかもしれない。

「私、春野ひなたです。東堂さんは、私の名前すら呼んではくれないんですね」

呼び方なんてなんでもいい。名字でも名前でも。けれど……呼んですらもらえないのは、寂しかった。

東堂さんが目を見張る。
この部屋に入ってきて、初めて彼の感情が顔に出た瞬間だった。

「こんな話は恥ずかしいですが」と、気持ちを打ち明ける。

「私、この一週間で、まだ逢ったこともない東堂さんのことをたくさん考えました。振袖は何色がいいだろう、不快にさせないよう話題はなにを選べばいいだろう。どこかに足を伸ばそうという話になった時、どこに行きたいと言えば負担にならず楽しんでもらえるだろう。どんなものが好きで、どんな声で話して、どんな顔で笑うんだろうって……そんなことをたくさん考えてました」

今思い返せば自分自身でもバカバカしいと思うほどに、東堂さんのことを考えていた。そして、私の十分の一でもいいから、東堂さんもそうだったらいいなと思っていた。


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