御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「あまり怖がらせたいわけじゃないけど、社内の人間って可能性はあるかも。更衣室のロッカーは鍵かけてるよね?」
「はい」
「気を付けられる部分は限られるけど、エレベーターは一番後ろに位置取りするとかした方がいいかもね。……でも、それでバッグに変な脅迫文入れられることはなくなっても根本的な解決にはなってないし、次になにかされても怖いから東堂さんには相談した方がいいよ」

心配を浮かべた表情で言われる。
「そうですよね」と返しながら、手紙に印刷された文字を思い出していた。


仕事を終え、周りの人の行動を十分に意識しながら帰宅した。
会社のエレベーターは君島先輩と一緒に乗り、電車にはバッグを抱き締めるようにして乗った。
けれど、それだけでは先輩の言った通り、根本的な解決にはならない。ただ変な手紙をバッグに入れられなくなるだけだ。

……もしかしたら。
帰宅する間もどこかで見張られていたりしたのだろうか。

そして、明らかに周りを警戒している私を見て楽しんでいたりするのだろうか。
そう考えると気持ち悪さや恐怖の入り混じった感情に襲われ、背中をゾクッとしたものが這った。

〝東堂晃成と別れろ〟
バッグから取り出した手紙を再度確認する。
わざわざ携帯なりパソコンなりで打ち込んで出力しているということは、咄嗟の出来心ではない。計画的だ。

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