御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「東堂さん、私のペースで物足りなくなかったですか?」
「いや、全然。今日は心拍数もすぐ上がったし気持ちよかった」
「あ、わかります。なんでだか心拍数が上がらなくてずっと苦しい日ありますよね」

会話しながらストレッチを終える。
三月最後の土曜日。汗をかくほどではないけれど体は温まっているので、寒くは感じなかった。

それでも、じっとしていると体が冷えるため、早めに車に戻ることにする。
駐車場は歩いて十分ほどかかるので、ふたりで並んで歩く。

実は、手紙のことはまだ話せていない。
電話やメッセージで伝えたら、ただ心配させてしまうかもしれないと思い言えなかった。だから、会ったときに……と考えていたのに、実際に東堂さんと会って話していると、ただ楽しくて、しまいにはあの脅迫状は別にたいしたことじゃなかったんじゃないかとさえ思えてきてしまっていた。

この五日間、どうやっても気持ちが晴れなかったのに、東堂さんの顔を見ただけで靄が吹き飛ぶのだから不思議だ。東堂さんの人柄のよさのせいだろうか。

それでも、やっぱり相談しておいた方がいいだろうと思い、話をしながら東堂さんの横顔をチラチラ確認する。
そのうちに会話が途切れたので脅迫文の話題を切り出そうとしたのだけれど。

「明日からフランスに出張するけど、なにか買ってきて欲しいものとかあるか?」

東堂さんがそう話し出す方が先だった。

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