御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「ああ。普段だとただぼーっとして通り過ぎるだけだから、ひなたに見せると思っていた方が俺的にも充実する」
「ありがとうございます。楽しみにしてます」

お礼を言いながら、視線を進行方向に戻したときだった。
ここに来たときと同じようにガラガラの駐車場に置いてある、東堂さんの車の異変に気付いたのは。

「東堂さん、車に――」

私が出した声を聞いた犯人らしき人が、慌てて逃げていく。
東堂さんが追いかけようとしたけれど、犯人はすぐ近くに止めてあったバイクに乗ってエンジンをふかす。

いくら東堂さんの足が速くても、バイク相手にはさすがに追いつけない。
そのまま犯人の後ろ姿を見送るほかなかった。



「ダメだよ。外から見えるところに荷物なんか置いてたら。こんな高い車、ただでさえ目立つんだからさ、少しは考えないと。彼女も、こんなところにポンと荷物置かないで今後は気を付けて。今回はたまたま鍵開けられる前だったから被害はなかったけど、最悪、車ごと持って行かれて海外に売られたらもう何も残らないよ。こういうのはしっかり自衛してもらわないと」

警察の人の話を、東堂さんと並んで聞く。
私たちが駐車場に戻ってきたとき、犯人は鍵を開けようとしていたところだったらしい。そこに私たちが姿を現したため、なにもせず逃げたのだけれど、被害がなかったわけではない。

助手席側の鍵穴周りには傷が残っていた。
犯人がなにかしらの工具を使って開けようとしていたんだろう。

逃げ出すバイクまで距離があったため、ナンバーは東堂さんも私も見えなかった。そのため、犯人に繋がる情報は、体形と服装だけとなった。

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