御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
キャップに上下のスウェットという服装は公園によく溶け込む。性別についても、恐らく男性だとは思うけれど100%とは言い切れず、曖昧な情報提供しかできない自分が情けなくなる。
それに……。
「すみません。私が荷物を置いていたせいで……」
外から見える位置に私がバッグを置いていたせいで、東堂さんの車が被害を受けてしまった。
警察官の言いようから、私のミスなのは明らかだった。
貴重品が入っているわけではなく、ただタオルや温かいお茶を入れた水筒が入っているだけだからと、無頓着に置いていた私の責任だ。
考えなしだった自分を反省しながら頭を下げると、すぐに東堂さんの手が頭を撫でる。
「いや、ひなたのせいじゃない。ただ運が悪かっただけだから気にするな」
「でも……」
「元々そういう自衛できた、みたいな話は好きじゃないんだ。〝暗い道をひとりで歩いていたせい〟だとか〝短いスカートをはいていたせい〟だとか。これだけ犯罪が多いから自分で気を付けるしかないのはわかる。でも、それを被害に遭って間もない人間に正論みたいに突き付けて余計に傷つけるのはおかしい」
私の頭から手を離した東堂さんが、警察官を見て言う。
その眼差しが責めているように感じたのは私だけじゃなく、警察官も同じようだった。バツが悪そうに頭をかいている。
「被害届を出します。今後駐車する際は気を付けますので、これ以上の注意はやめていただけますか」
最後「さっさと処理を進めてください」と警察官に告げた声は怒っているようで、聞いているこっちがハラハラしてしまった。