御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
驚いたせいもあるけれど、なによりも戸惑いから肩が跳ね、それに連動するように鼓動も高く跳ね上がる。
ふたりきりの車内。口の端を上げた東堂さんから色気を含んだ空気を感じ、胸がトクトクと鳴っていた。
さっきジョギングしていたときと同じか、それ以上の速さで動く心臓に体が強張る。
「あの……?」と声を出した私に、東堂さんがゆっくりと口を開く。
「それ以上謝るなら、このままキスする」
告げられた言葉を理解するまでに時間がかかった。
ただでさえ、この距離に緊張していたのに、そこにさらにドキドキするようなことを言われ頭のなかはパニックだ。
混乱しながらも、東堂さんが私の罪悪感を拭い去るためにこんなことを言ってきているのはわかっていた。
これは冗談で、東堂さんは本気じゃない。
けれど……。
「もし、そんなことがお詫びになるなら……その、ど、どうぞ」
東堂さんが気に入っていると話してくれた車を、私のせいで傷つけた。いくら〝ひなたのせいじゃない〟〝気にしなくていい〟なんて言われても、私は完全にはそう思えないしやっぱり償いたい。
けれど私から差し出せるものなんて本当に限られてしまうから、東堂さんがキスを受け取ってくれるなら……。
そう思い、ギュッと目を瞑り顔を上げる。
異常なほどに騒がしい心臓が、体をドコドコと内側から鳴らしていた。
しばらくすると、東堂さんが近づいた気配がし、緊張がピークに差し掛かった……のだけれど。