御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない


「ん……ふ、ぁ……」

東堂さんの舌に上あごを撫でられ、おかしな声が漏れる。くすぐったさにも似た気持ち良さを感じ戸惑って思わず目を開けると、東堂さんが口の端を上げたのがわかった。

けれど、その直後、視線を落とした東堂さんが眉を寄せる。
そして、キスを止めると、不満そうに「邪魔だな」と呟くように言った。

「……え?」
「シフトレバー。どこか当たって痛かったりしなかったか?」

さっき私の腰を抱き寄せたから、心配してくれたんだろう。
ふるふると首を横に振った私に、東堂さんは安心したように「そうか」と言い……再度、距離を埋めた。

「ん……」

ゆっくりと慣らされるようなキスに、思考回路がぼんやりとしてくる。

東堂さんの体温。香り。唇や舌の感触。
受け取る情報量の多さに頭がショートしそうだった。



「〝キスくらいで責任なんておおげさ〟だったか?」

東堂さんにしては珍しく少し意地の悪い質問だった。
すっかり火照った顔を見られるのが嫌で、胸に顔を埋めると、東堂さんが抱き締めてくれる。

恋愛初心者の私は、キスされただけでこんな骨抜き状態なのに、平然と笑っていられる東堂さんが少しだけ憎らしい。

けれど、今まで見た中で一番機嫌のよさそうな顔を見れば、そんな文句もすぐにどこかへ消えて行った。




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