御曹司は初心なお見合い妻への欲情を抑えきれない
『ちょっと時間が空いたから』とくれる電話は、決まって私の休憩時間や退社後のタイミングで、きっと時差を考えてくれているのだろうと伝わってきて、その優しさにじわじわと嬉しさが胸を包んだ。
今日の電話も、私が帰宅後すぐだった。
『基本的にはうまいしそこまで口に合わないものはないけど、やっぱり、日本食が恋しくはなる』
東堂さんは朝はホテルのルームサービスを頼み、昼と夜は外食で済ませているらしい。そんな暮らしをした経験がないので想像でしかないけれど、ずっと外食だとたしかに肩が張りそうだなと思う。
体のためにも、たまにはあっさりしたものでも食べてくれているといいのだけれど……と内心心配していると、東堂さんが『今度、ひたなが作ったグラタンが食べたい』と言う。
「グラタン? たしか、ジャガイモを使ったグラタンってフランスにありませんでしたっけ?」
むしろそちらが本場のように思える。
ドフィノアだかなんだか、発音が難しいグラタン料理があった気がする。
『ああ。昨日食べた。まぁ、うまかったけど、ひなたならどう作るのか食べてみたくなったから』
「それは……なかなかプレッシャーですね。私が作るグラタンなんて一般家庭の味でしかないので、お店の味と比べられちゃうと困りますが……それでもいいなら」
オムライスの時といい、リクエスト自体はそこまで難易度が高くないのに、なぜかハードルが高く感じてしまい苦笑いをもらす。