能力を失った聖女は用済みですか?
第五章 聖女、敵を知る
「北門、異常はありません!」

「南門、異常なし!」

「正門、ロラン国使者の姿はまだ見えません!」

謁見の間には、兵士が入れ替わり立ち替わりやって来て、状況をカイエンに報告している。
今日、とうとうロランからラシッドがやって来る。
ロラン兵がアルバーダでハシムを浚うという暴挙に出たのを、カイエン達はまだ忘れていない。
手段を選ばない野蛮な行為に、今回も卑怯な手に出ないかを心配しての警戒体勢だ。

「緊張しているのか?」

玉座に座るカイエンが尋ねてきた。
私は王妃の席に座り、仕立てて貰った衣装を纏って、借りてきた猫のようにちょこんと座っている。
「緊張しているのか?」と聞かれたけれど、まさにその通り、めちゃくちゃ緊張している。
でもそれは、ラシッドと会うせいじゃなく、場違いなこの雰囲気に飲まれそうだからだ。
表情筋が固まったまま無言の私を見て、カイエンは愉快そうに笑った。

「大丈夫。全てオレに任せておけ。どんと構えて座っているだけでいい」

「は、はい……」

そう返事はしたものの、見られることに慣れてない小心者(私)は、キョロキョロと視線を彷徨わせた。
せっかく新しい衣装で、髪も美しく結って貰ったのに、王妃が貫禄のない小者で本当に申し訳ない。
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