能力を失った聖女は用済みですか?
私とは逆に、ラシッドは恐怖で竦み上がっていた。
顔色は更に悪くなり、吐きそうな様相で口を押さえている。
ロランの隊長が肩を支えていなければ倒れていただろう。
まだ怒りが収まらないカイエンに代わり、シスルが場を納めた。

「シャンバラ王はもうお話することはないそうです。ラシッド様、お帰りを」

「……わかりました」

答えたのは隊長の方だ。

「しかし、どうかご一考を……ロランの民のために……どうか……」

フラフラのラシッドを支えながなら、隊長は切実に訴えた。
祈るようなその目が、ロランの人達の心情と重なり、私の心は乱された。

そうしてシスルに促され、ラシッドと隊長が謁見の間を去ると、場に静けさが戻った。
誰もいなくなった謁見の間で、カイエンと私はどちらともなく互いに見つめ合った。

「何を考えている?」

カイエンが言った。

「……ロランの民のことを……大丈夫かなって……」

「そうだろうと思ったよ。オレもお前と同じことを考えていたからな」

「え!?カイエン様……も?」

同じことって……本当に?
私は目を見開いた。

「ラシッド……あいつはやはり気にくわない。だが、民に罪はない。なんとかしてやりたいと思う」

「は、はい。私も……」

「それにな……このままではオレはロランと同じになってしまうんだ」

カイエンはそう言って笑うと、また続けた。

「シャンバラの危機を無視したロランと……な。そうはなりたくないと、心底思う。どんなに相手が憎くても」

「カイエン様……」

他者を思いやる気持ち、揺るぎない正義感……そして何より、誇り高い精神。
私の国の王様は、他国のどの王様よりも素晴らしい人だ。
< 139 / 204 >

この作品をシェア

pagetop