能力を失った聖女は用済みですか?
「昔話?」

カイエンが言い、他の全員が首を捻った。
側室アイーシャの話から、何故昔話へと話が飛ぶのか。
それが、わからなかったからだ。
しかし、シャルは冷静にコホンと一回咳払いをすると、吟遊詩人さながらに語り始めたのである。

「……昔々、ニーベルンは賢王マルスが収める大変栄えた国でした。その国に、ある日踊り子のアイーシャがやってきました。彼女の美しさに虜になったマルスは、なんと国の政を疎かにし始めたのです。時を同じくして、ニーベルンに大飢饉が襲いました。作物は枯れ、食べ物はなく、飲み水にも困る始末。それでも、マルスは国を省みることはありません。国民は次々に隣国に逃げ、とうとう国にはマルス一人だけとなりました」

「……で?どうなった?」

一度黙ったシャルに、カイエンが尋ねた。
するとシャルは、取り囲む全員の目を順番に見つめ、驚くべきことを言った。

「さぁ?わかりません」

「え……わからないって……そんな中途半端な昔話があるか!?」

カイエンの文句に私も同意である。
……ヲチのない昔話なんて、喉に小骨が刺さったみたいで気持ち悪い。

「叔父上。マルス一人だけになったのに、最後の状況がわかるわけないでしょう?まぁ、結果ニーベルンは滅亡したのですから、マルスは死んだか殺されたんです」

淡々と述べるシャルに、カイエンは呆れ気味にため息をついた。
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