能力を失った聖女は用済みですか?
「何を言っても、遅いのはわかっている。私は……王妃を失った悲しみに耐えられなかった。占いやアイーシャにすがったのも、彼女のいなくなった心の隙間を埋めるため……まさかあれが、邪な神だったとは……」

ロラン王は独り言のように言った。
王妃が存命だったころ、二人がどれほど仲が良かったか、直に見ていた私は良く知っている。
家族を失った悲しみも、少しはわかるつもりだ。

「だからと言って、責務を放り出した言い訳にはならない」

項垂れる王を叱責したのは、カイエンだ。

「そなたは……?」

「オレはシャンバラの王、カイエン。差し出がましいようだが言わせてくれ。皆の生活と命を預かる責任者として、貴方のしたことは間違っている……王を名乗るなら、自分の気持ちよりも、民を優先するべきだった」

誰よりも責任と感情の間で葛藤したカイエンだから、簡単に投げ出した王が許せないのかもしれない。
言い方がキツいのも、同じ王だからこそだと思う。

「……シャンバラの王よ……そうかもしれぬ。しかし、どうにもならなかったのだ。その時は……」

「済んでしまったことは仕方ない。これからどう償っていくかを考えるべきだ。幸い邪神は封印され、民にも大した被害はない。大地も元通りになるはず……だよな?」

カイエンは突然私を振り返った。
恐らくガラティアに確認を取って貰いたいのだろう。
地母神は今、ディアーハの背に乗り楽しく遊んでいる最中だ。

「ガラティア様?どうでしょうか?元通りになりますか?」

『ん?おお、そうじゃなぁ。各地に妾の石像を増やし日々崇め奉れば一月(ひとつき)じゃの』

「一月……あれ?でも、シャンバラは一瞬でしたよ?」

『シャンバラは特別じゃ!妾を呼び起こした聖地ぞ?』

知らないうちに、シャンバラが地母神に聖地認定されている……。
あっ、そうか。助けて下さい!って言った時、ガラティアが即答したのは、シャンバラが聖地、いわゆる生まれ故郷みたいなものだったからだ。
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