能力を失った聖女は用済みですか?
チラッとカイエンに視線を送ると「いいぞ」と言うように大きく頷いている。
それを見て、シータの表情がぱあっと明るくなった。

「ルナねぇさまと一緒!?じゃあね、じゃあね、シータが案内してあげるねっ!」

「おい、シータ。今日はもうすぐ寝る時間だろ?明日の朝にしろ」

私の手を握って走り出しそうなシータは、カイエンに言われて項垂れた。
でも「明日行こうね」と約束すると、納得して他の子供達と遊び始めた。

「懐かれたな。シータは子供の中でも、とびきりの元気印だ。振り回されないように気を付けろよ」

「ふふ。本当に元気でしたね!早速妹が出来ちゃいました。あ、苗当番ではシータが先輩ですね」

「そうかもな。じゃあ、部屋に案内するよ。長旅で疲れたろう。今日はもう休むといい」

「ありがとうございます」

その後、カイエンは王宮の奥の部屋に私を案内してくれた。
アッサラームに嫁いだお姉さんの部屋で、今は誰も使ってないらしい。
もう少し狭くても全然構わない、なんならシータや子供達と一緒でもいい、と言ったのに、カイエンは笑顔で却下した。
……問答をしても無駄みたい。
私はありがたく部屋を借り、すぐさま寝台に体を横たえた。
ずっと我慢してたけど、めちゃくちゃお尻が痛い。
初めて馬に乗ったけど、こんなにお尻が痛いなんて予想外である。
ディアーハに乗っていれば、快適な空の旅だったろうけど、そんなことすれば「聖女」だとバレてしまう。
例えバレなくても、変な術を使う怪しい女だと思われそう。

「安心して寝ていいぜ?」

頭上から声が聞こえた。
顔を向けると、ふわりと浮いたディアーハがこちらを覗き込んでいる。

「ディアーハ?見張っててくれるの?」

「見張らずともここは安全だ。嫌な意思を感じない。安心して眠れ」

ディアーハは私の横に降り立ち、丸くなって目を閉じた。
それにつられて眠くなってきた私も、ゆっくりと眠りに落ちたのである。
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