能力を失った聖女は用済みですか?
ディアーハの背に乗って見下ろすロランの町は、平和そのものだった。
人々は日々の糧のために働き、言葉を交わし笑い合う。
たまに小競り合いもあるけれど、それはどこにでもある日常の風景だ。
まさか、聖女が失業して追い出されたなんて、誰も考えていないわよね?
と、自分で言って悲しくなった私は、気持ちを切り替えてディアーハに話しかけた。
「どこに行こうか?」
「……」
ディアーハからの返答はない。
精霊と交流出来なくなってから、ディアーハとも話せなくなっていた。
こうなる前は、漫才の相方のように気の合ういい友人だった。
私のボケに、ディアーハが突っ込んで、笑って、怒って、泣いて。
思い出して切なくなったけど、会話が出来ないだけで、こちらの話を理解していることは態度でわかった。
「隣の国にでも行く?ほら、南のシャンバラ。大干ばつがあって、今も土地が痩せて大変だって聞いたわ」
すると、ディアーハが振り返った。
その表情は「力が使えないのに、行ってどうするんだ?」と言っているように見えた。
「力は使えないけど、何か出来ることはあるかもしれない。土地の状態を見て、適切な作物を植えるとか……そういうの専門だから」
私はこの世界に来る前、農業大学に在学していた。
だから、土地や作物に関しては少しだけ詳しい。
豊かな土壌を作り、その土壌に育つ作物との関係を実地体験でデータにするという研究もしている。
だから、精霊の力は借りられなくとも、自分の知識を役立てられないかと考えていた。
力にもなれないかもしれないけれど、その時は、鍬を持って一緒に畑を耕そう。
私の意気込みを感じてか、ディアーハはガウッと一度吠え、南に向かって翼を旋回させた。
180度変わった景色には、真正面に太陽がある。
それは私の行く先を阻むものか、照らすものか……。
何もわからないけど、まだ見ぬ大地に心を馳せながら、私とディアーハは一路シャンバラへと飛んだ。