能力を失った聖女は用済みですか?
ーー大干ばつ。

この世界では、たまに起こる天災で、全く雨が降らなくなり大地が干上がり、作物が枯れる。
それを防ぐために、異世界から聖女が呼ばれるのだが……。
もともと、聖女を呼ぶ儀式には大量の魔鉱石が必要で、それが産出される国は数えるほどしかない。
ロランは領地に巨大な魔鉱石鉱山を持っていて、それゆえに大きな繁栄を遂げてきた。
豊富な魔鉱石と、聖女の力。
それを全て持っていたロランは、この世界の王といっても過言ではなかった。

南のシャンバラは、大干ばつのおり、ロランへ聖女の派遣を願い出た。
しかし、その願いをロラン王は断った。
ロランの魔鉱石で召喚した聖女は、ロランのもの。
だから、他国への派遣は出来ぬと、一刀両断したのである。
その情報は私には知らされず、世界を周遊する風の精霊に聞いた時には、シャンバラは壊滅的な打撃を受けていた後だったのだ。

「そろそろ国境ね……」

呟くとディアーハが高度を下げた。
雲の隙間から見えたのは、茶色の大地。
良く見えなくて身を乗り出した私は言葉を失った。
ちょうどロランとシャンバラの境目から、色が変わっていたのである。
ロランが緑豊かな草原であるのに対して、シャンバラは乾いた大地がひび割れて一面黄土色。
それはもう、天と地程の差があった。

「シャンバラがこんなことになっていたなんて……人は……人は住んでいるのかしら……」

「この辺にはいねぇな。もっと内陸には生体反応があるぜ?」

「そう……じゃあ、そこに……ん!?」

突然聞こえた声に、私は目を見開いた。
ここはシャンバラ上空である。
当然周りに人はいない。
いるのは、私とディアーハだけで、今彼とは会話が出来なかったはず……。

「やっと俺様の声が聞こえたな?全くよぅ、シカトも程ほどにしやがれってんだ!」

「ディアーハ!?ディアーハ、喋れたの?」

「俺様はずっと話してたぜ?お前に伝わってなかっただけだ」

「え……そうなの?」

ディアーハは、また一段階高度を落とし、枯れた大地と平行して飛んだ。

「……ロランは今、何かがおかしい。詳しくはわからないが、精霊達とお前の仲を、邪魔する何かが起きているようだ」

「邪魔?それが精霊達の声が聞こえなくなった理由なの?」

「たぶんな。その証拠にシャンバラに入った途端、俺様の声が聞こえるだろ?」

「……そうね、そうだわ」

ちょうど、シャンバラへ抜けた頃から体が軽くなった気がする。
ロランで邪魔していた何かが消えて、シャンバラに来て繋がった……ということなのだろうか。
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