能力を失った聖女は用済みですか?
「王とは、皆と作業をしないものか?イモを掘らないものか?それが王だというのなら、オレはなれないな」

「では、カイエン様が考える王とは?」

一瞬、カイエンは空を仰ぐ。
頭の中の思いを言葉に変換している……そんなふうに見えた。

「……王とは、王という名の職業で、仕事は民が健やかに暮らすための……苦情処理係だな」

「苦情処理……ですか?」

「うん。まぁつまり王ってのは、皆がいてこその王で……皆が楽しく暮らせる国を作るためにいるものだとそう思っている」

カイエンは、太陽を背にして屈託なく笑った。
王であるには純粋過ぎる……そう思ったけど、シャンバラの人達が何にも負けずいつも笑顔なのは、この王がいるからではないのか。
一度地に落ち這い上がってくるのには、相当のパワーが必要だ。
内乱により荒れ、干ばつで疲弊した危機的状況の中では、恐怖や圧政……力で国は復興しない。
カイエンは復興する為に一番必要なものを最初から持っていた。
それは、正論と正義と愛情と笑顔。

「カイエン様は不思議な方ですね。でも、好きですよ、そういうの」

「すっ!?……あ、うん、そりゃあ、どうも……」

一瞬驚いて、それから素っ気なく……カイエンはよいしょと立ち上がった。
そして、思い出したように言った。

「あ、そうだ!ルナ、明日、行くぞ!」

「行く?どこへ……あっ!はい。集落を見に行くんですねっ!」

カイエンは頷いた。
苗を植えてから一週間以上経つ。
王宮菜園ではここまで育ったけど、土が痩せている集落ではどうだろうか。
せめて、少しでも根付いていれば希望が持てるのだけど。

「早朝出る予定だからな。そのつもりで準備をしておいてくれ」

「わかりました」

仕事のことは王宮の皆がわかっているので心配はない。
準備するものは何もないけど、集落の皆に、ルナシータを持って行くのもいいかもしれない。
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