能力を失った聖女は用済みですか?
「精霊などが本当に存在するとは、ワシらも信じられなかったよ……だが、このイモの大豊作を見れば……なぁ?」

ナヤンが他の皆に問いかけると、老人達が条件反射のように首を縦に振る。
他の集落同様、アルバーダでも巨大イモは大豊作であった。
一晩で実るイモに、集落の老人達は腰を抜かすほど驚いたらしい。

「ワシら目に見えんもんは信じないが、こうも奇跡のようなことが起こるともう……イモの精霊を信じるしかないわ」

「あはは……私はおイモの精霊っていうのは見たことないですけど、ひょっとしたら、いるのかもしれませんね!」

レグラザードから辺境のアルバーダ。
おイモの精霊は、これで国内のあらゆる場所に浸透したことになる。
シャンバラ全土で、イモが繋ぐ不思議なネットワークは、無神論者の民に、精霊信仰という共通意識を持たせたのだ。

「私の力が失われてなかったら、おイモの精霊の姿も見えたかもしれないのに。そうすれば、もっとシャンバラのためになることが出来たはずなんですよね……」

「何を言っとるんだ?力が失くならなかったら、あんたここにはおらんだろ?」

ハシムが言うと、皆が大笑いした。

「た、確かにそうですね。でも、シャンバラの現状を見て、自分が無力なのを思い知って……」

「そりゃ違う。あんたが来てくれたからこんな旨いもの、食べられるんだろ?」

ハシムは目の前に置かれたプリンの器を指差した。
アルバーダで、私はまたプリンを作った。
老人しかいないこの集落では、プリンが喜ばれるかと思ったので、キドニー集落から卵と牛乳を拝借していたのである。
ここでは、せっかくのイモも作り手がいなくて、ずっと蒸して食べていたらしい。
まぁ、それでも十分美味しいんだけど。
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