アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
セシリアはアリーシャの両手を取ると、そっと握りしめる。
「あの後、クシャ様からアリーシャさんの特徴を聞いて、ようやく似合う服を見つけられたんです。……いつかお渡ししようと思っていました」
「セシリアさん。ありがとうございます。最初にご用意して頂いたお洋服も、お部屋のお洋服や靴も」
「クローゼットとベッドの下をご覧になりました?」と、セシリアに聞かれたアリーシャは「はい」と答える。
「誰かに、こうしてプレゼントを頂いたことは無かったので、とても嬉しいです。ありがとうございました」
セシリアは一瞬目を見張ったが、すぐに「そうですか」と元の笑みを浮かべた顔に戻る。
「お礼なら私ではなく、オーキッド様に言って下さい。どれも用意をするように言ったのは、オーキッド様なのです」
セシリアに言われて、アリーシャはオルキデアを見上げる。
「ありがとうございます。オルキデア様! 私、私……嬉しいです!」
オルキデアは目を逸らし、手で顔を押さえながら、「大したことではない」と返す。
「アリーシャさん」
名前を呼ばれて、アリーシャはセシリアの方を向く。
「これから、この屋敷で、オーキッド様の奥様として暮らす中で、様々なことが起こるかもしれません。
その時は出来る限り、オーキッド様の力になってあげて下さい」
「セシリアさん……」
「その際には、差し上げたドレスで身を飾って、オーキッド様に相応しい女性でいて下さい。胸を張って、堂々とするだけでいいんです。……オーキッド様が一人にならないように、隣に居て下さい」
セシリアは握ったアリーシャの手を上下に軽く振る。
「それから、暇な時は是非、私たちの家に遊びに来て下さい。この屋敷の近くなんです」
セシリアとクシャースラの自宅は、この屋敷の通りを左にずっと行って、二つ目の角を左に曲がってすぐ手前にある。
アリーシャの足でも、十五分もあれば辿り着くだろう。
「朝は弟たちと一緒に、父が経営する新聞工場の新聞配達を手伝って、それから昼までは下町のお花屋さんで働いています。
でもそれ以外は自宅に居るので、よければ遊びに来て下さい」
「えっ、いいんですか……?」
セシリアは「ええ」と困り顔をする。
「近所に同年代が居ないのと、クシャ様は仕事で自宅を不在にしがちなので、時間を持て余すことが多いんです」
オルキデアが親友に視線を向けると、申し訳なさそうに目を逸らしていた。
アリーシャは小さく笑うと、「わかりました」と返事をしたのだった。
「遊びに行きます。……行かせて下さい」
「ええ。是非」
そうして、セシリアはアリーシャの手を離すと、クシャースラの隣に並ぶ。
「そうだ。クシャースラ、今日の報酬だが……」
「おれもいらないよ。なあ、セシリア?」
「そうですね。私も必要ありません」
「だが、二人には危険を犯してもらったんだ。これくらいはさせてくれ……」
夫婦は顔を見合わせるが、どちらともなく首を振る。
「おれたちは報酬目当てでやったんじゃない。大切な親友夫婦のためにやったんだ。……それは受け取れない」
「だが……」
「そのお金は私たちじゃなくて、アリーシャさんに使って下さい。これから、何かと入り用でしょう」
セシリアは白手袋を脱いで自らの左手を示すと、次いで夫の左手を取って示す。
それだけで、オルキデアはセシリアが何を言いたいのか理解した。
二人の左手の薬指が、屋敷の明かりで鈍く銀色に光っていたからだった。
「あの後、クシャ様からアリーシャさんの特徴を聞いて、ようやく似合う服を見つけられたんです。……いつかお渡ししようと思っていました」
「セシリアさん。ありがとうございます。最初にご用意して頂いたお洋服も、お部屋のお洋服や靴も」
「クローゼットとベッドの下をご覧になりました?」と、セシリアに聞かれたアリーシャは「はい」と答える。
「誰かに、こうしてプレゼントを頂いたことは無かったので、とても嬉しいです。ありがとうございました」
セシリアは一瞬目を見張ったが、すぐに「そうですか」と元の笑みを浮かべた顔に戻る。
「お礼なら私ではなく、オーキッド様に言って下さい。どれも用意をするように言ったのは、オーキッド様なのです」
セシリアに言われて、アリーシャはオルキデアを見上げる。
「ありがとうございます。オルキデア様! 私、私……嬉しいです!」
オルキデアは目を逸らし、手で顔を押さえながら、「大したことではない」と返す。
「アリーシャさん」
名前を呼ばれて、アリーシャはセシリアの方を向く。
「これから、この屋敷で、オーキッド様の奥様として暮らす中で、様々なことが起こるかもしれません。
その時は出来る限り、オーキッド様の力になってあげて下さい」
「セシリアさん……」
「その際には、差し上げたドレスで身を飾って、オーキッド様に相応しい女性でいて下さい。胸を張って、堂々とするだけでいいんです。……オーキッド様が一人にならないように、隣に居て下さい」
セシリアは握ったアリーシャの手を上下に軽く振る。
「それから、暇な時は是非、私たちの家に遊びに来て下さい。この屋敷の近くなんです」
セシリアとクシャースラの自宅は、この屋敷の通りを左にずっと行って、二つ目の角を左に曲がってすぐ手前にある。
アリーシャの足でも、十五分もあれば辿り着くだろう。
「朝は弟たちと一緒に、父が経営する新聞工場の新聞配達を手伝って、それから昼までは下町のお花屋さんで働いています。
でもそれ以外は自宅に居るので、よければ遊びに来て下さい」
「えっ、いいんですか……?」
セシリアは「ええ」と困り顔をする。
「近所に同年代が居ないのと、クシャ様は仕事で自宅を不在にしがちなので、時間を持て余すことが多いんです」
オルキデアが親友に視線を向けると、申し訳なさそうに目を逸らしていた。
アリーシャは小さく笑うと、「わかりました」と返事をしたのだった。
「遊びに行きます。……行かせて下さい」
「ええ。是非」
そうして、セシリアはアリーシャの手を離すと、クシャースラの隣に並ぶ。
「そうだ。クシャースラ、今日の報酬だが……」
「おれもいらないよ。なあ、セシリア?」
「そうですね。私も必要ありません」
「だが、二人には危険を犯してもらったんだ。これくらいはさせてくれ……」
夫婦は顔を見合わせるが、どちらともなく首を振る。
「おれたちは報酬目当てでやったんじゃない。大切な親友夫婦のためにやったんだ。……それは受け取れない」
「だが……」
「そのお金は私たちじゃなくて、アリーシャさんに使って下さい。これから、何かと入り用でしょう」
セシリアは白手袋を脱いで自らの左手を示すと、次いで夫の左手を取って示す。
それだけで、オルキデアはセシリアが何を言いたいのか理解した。
二人の左手の薬指が、屋敷の明かりで鈍く銀色に光っていたからだった。