アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
不安と寂しさと
初めて屋敷に来た夜。いつもと同じ時間に床に入ったアリーシャだったが、何度も寝返りを打っていた。
(眠れない……)
原因はわかっている。
いつもよりベッドがふかふかで落ち着かないからだった。
シュタルクヘルトでも、オルキデアの執務室でも、ベッドはもっと硬くて、ごわごわしたものだった。
こんなにふかふかで、肌触りのいい寝具を使ったことは無かった。
きっとマルテたちは、質のいいものを用意してくれたのだろう。
心遣いがありがたい反面、ふかふか過ぎて落ち着かなかった。
それ以外にも、屋敷の中が物音一つない静かなこと。
夕食の席でもオルキデアから聞いたが、この屋敷には使用人はおらず、たまに帰ってくるとマルテやセシリアが手伝いに来てくれていたらしい。
元々、長逗留をする予定でこの屋敷を買った訳ではなく、以前住んでいた屋敷の維持費が高く、また建っていた場所も軍部とオルキデアの留守を預かるコーンウォール家から遠かったからという理由で、数年前にここに越して来たそうだ。
なので、今回、アリーシャと住むのに辺り、生活するのに必要な家具や道具を集めたと、教えてくれたのだった。
住む目的で購入した訳ではないので、使用人はおらず、また王都の中心部からも距離が遠く、人通りが少ない。
これまでアリーシャが住んでいた娼婦街やシュタルクヘルトの屋敷、国境沿いの基地や昨日まで滞在していた軍部はまだ人の気配があった。
家主のオルキデアとアリーシャ以外には、誰もいない屋敷は、夜になると静まり返って、不安と寂しさを感じてしまう。
こんなに静かな夜は初めてだった。
(オルキデア様はもう寝たかな……)
夕食が済み、自室でシャワーを浴びるなり、早々に部屋に戻ってしまったオルキデア。
疲れていると思い、そっとしていたが、こう静かだと不在なのかと疑ってしまう。
(出掛けてないよね……?)
そっとベッドから出て、廊下に続く扉を開ける。
寝息も聞こえず、声や音も聞こえず、だんだんと不安になって来る。
その時、外で風が吹いて、廊下の窓が大きくカタカタと揺れる。
昼間は吹いていなかったが、夜に近づくにつれて、冷たい夜風が吹いてきた。
さっきまでは気にしない程度だったが、今の一際大きな物音にアリーシャの身体は大きく跳ねたのだった。
(この歳にもなって、風が吹いただけで驚くなんて)
そう思っても、これまでは風の音を気にしないくらいに、人の気配か近いところで生活してきたのだ。
やっぱり、こう静かなのは落ち着かない。
アリーシャは足音を潜めながら、廊下に出たのだった。
オルキデアの部屋の前まで来ても、やはり部屋からは物音一つ聞こえてこなかった。
(やっぱり、もう寝たのかな……)
握り締めた手を扉に近づけるが、すぐに腕を下ろす。
(寝てるなら、起こすのは悪いよね)
それに、この歳にもなって一人で寝れないと思われたくない。
庭でも軽く散歩してから、部屋に戻って寝ようかと、踵を返した時だった。
後ろでガチャリと、扉が開く音が聞こえてきた。
「アリーシャ?」
寝間着姿のオルキデアは紫色の目を丸く見開いて、アリーシャをじっと見つめていた。
「どうした? こんな時間に」
「起こしてしまったのならすみません。眠れなかったので、屋敷内を歩いていました」
「まだ寝ていなかったから気にするな。俺も眠れなくて、ずっと本を読んでいた」
「そうだったんですか?」
それで屋敷内が静かだったのかと、アリーシャは合点がいった。
(眠れない……)
原因はわかっている。
いつもよりベッドがふかふかで落ち着かないからだった。
シュタルクヘルトでも、オルキデアの執務室でも、ベッドはもっと硬くて、ごわごわしたものだった。
こんなにふかふかで、肌触りのいい寝具を使ったことは無かった。
きっとマルテたちは、質のいいものを用意してくれたのだろう。
心遣いがありがたい反面、ふかふか過ぎて落ち着かなかった。
それ以外にも、屋敷の中が物音一つない静かなこと。
夕食の席でもオルキデアから聞いたが、この屋敷には使用人はおらず、たまに帰ってくるとマルテやセシリアが手伝いに来てくれていたらしい。
元々、長逗留をする予定でこの屋敷を買った訳ではなく、以前住んでいた屋敷の維持費が高く、また建っていた場所も軍部とオルキデアの留守を預かるコーンウォール家から遠かったからという理由で、数年前にここに越して来たそうだ。
なので、今回、アリーシャと住むのに辺り、生活するのに必要な家具や道具を集めたと、教えてくれたのだった。
住む目的で購入した訳ではないので、使用人はおらず、また王都の中心部からも距離が遠く、人通りが少ない。
これまでアリーシャが住んでいた娼婦街やシュタルクヘルトの屋敷、国境沿いの基地や昨日まで滞在していた軍部はまだ人の気配があった。
家主のオルキデアとアリーシャ以外には、誰もいない屋敷は、夜になると静まり返って、不安と寂しさを感じてしまう。
こんなに静かな夜は初めてだった。
(オルキデア様はもう寝たかな……)
夕食が済み、自室でシャワーを浴びるなり、早々に部屋に戻ってしまったオルキデア。
疲れていると思い、そっとしていたが、こう静かだと不在なのかと疑ってしまう。
(出掛けてないよね……?)
そっとベッドから出て、廊下に続く扉を開ける。
寝息も聞こえず、声や音も聞こえず、だんだんと不安になって来る。
その時、外で風が吹いて、廊下の窓が大きくカタカタと揺れる。
昼間は吹いていなかったが、夜に近づくにつれて、冷たい夜風が吹いてきた。
さっきまでは気にしない程度だったが、今の一際大きな物音にアリーシャの身体は大きく跳ねたのだった。
(この歳にもなって、風が吹いただけで驚くなんて)
そう思っても、これまでは風の音を気にしないくらいに、人の気配か近いところで生活してきたのだ。
やっぱり、こう静かなのは落ち着かない。
アリーシャは足音を潜めながら、廊下に出たのだった。
オルキデアの部屋の前まで来ても、やはり部屋からは物音一つ聞こえてこなかった。
(やっぱり、もう寝たのかな……)
握り締めた手を扉に近づけるが、すぐに腕を下ろす。
(寝てるなら、起こすのは悪いよね)
それに、この歳にもなって一人で寝れないと思われたくない。
庭でも軽く散歩してから、部屋に戻って寝ようかと、踵を返した時だった。
後ろでガチャリと、扉が開く音が聞こえてきた。
「アリーシャ?」
寝間着姿のオルキデアは紫色の目を丸く見開いて、アリーシャをじっと見つめていた。
「どうした? こんな時間に」
「起こしてしまったのならすみません。眠れなかったので、屋敷内を歩いていました」
「まだ寝ていなかったから気にするな。俺も眠れなくて、ずっと本を読んでいた」
「そうだったんですか?」
それで屋敷内が静かだったのかと、アリーシャは合点がいった。